高校生物で学ぶPCR法についてわかりやすく解説します。末尾に練習問題もありますので、理解度の確認に利用してください。
PCR法とは?
PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)は、DNAを短時間で大量に増幅する方法です。次のような分野で利用されています。
- 遺伝子研究:特定の遺伝子を解析し、生物の進化や遺伝病の研究に活用
- 法医学:犯罪現場の微量なDNAを増幅し、犯人の特定に利用
- 医療検査:感染症(例:COVID-19)の診断に利用
PCR法の3つのステップ
PCRは、以下の3つのステップを1サイクルとして繰り返します。
- 変性(Denaturation, 変性)
- アニーリング(Annealing, アニーリング)
- 伸長(Extension, 伸長)
これらのステップが1サイクルになり、通常30〜40回繰り返されます。
変性(Denaturation, 変性)
- 温度: 約94〜98℃
- 目的: 二本鎖DNAを一本鎖にする
DNAはもともと二本鎖ですが、高温にすることで水素結合が切れ、一本鎖になります。この一本鎖の状態にしないと、次のステップでプライマーが結合できません。
アニーリング(Annealing, アニーリング)
- 温度: 約50〜65℃(プライマーの性質によって異なる)
- 目的: プライマー(短いDNA断片)を一本鎖DNAに結合させる
プライマーは、増幅したいDNA配列の両端に特異的に結合する短いDNAの断片です。このプライマーが結合することで、次のステップでDNA合成を開始できます。
※ プライマーの役割: DNAポリメラーゼ(Taqポリメラーゼなど)は、DNAの合成を始めるための「目印」が必要です。その目印となるのがプライマーです。
伸長(Extension, 伸長)
- 温度: 約72℃(Taqポリメラーゼの最適温度)
- 目的: DNAポリメラーゼが新しいDNA鎖を合成する
プライマーが結合した後、DNAポリメラーゼ(通常、熱に強いTaqポリメラーゼ)がDNAの新しい鎖を作ります。DNAポリメラーゼは、元のDNA鎖を鋳型(ひな型)として、ヌクレオチドを取り込んで新しいDNA鎖を作ります。
この過程で、元のDNAのコピーが作られ、DNAの量が2倍になります。
PCRのサイクルの繰り返し
この「変性 → アニーリング → 伸長」の3つのステップを繰り返すことで、DNAの量が指数関数的に増えていきます。例えば、
- 1サイクル後:2本
- 2サイクル後:4本
- 3サイクル後:8本
- 4サイクル後:16本
(※ 実際は効率の問題で100%増え続けるわけではありません)
通常、30〜40回繰り返すことで、数百万〜数十億倍にDNAが増幅されます。
まとめ
ステップ | 温度 | 目的 |
---|---|---|
① 変性(Denaturation) | 94〜98℃ | 二本鎖DNAを一本鎖にする |
② アニーリング(Annealing) | 50〜65℃ | プライマーを結合させる |
③ 伸長(Extension) | 72℃ | DNAポリメラーゼが新しいDNA鎖を合成する |
この3つのステップを繰り返すことで、特定のDNA配列を大量に増幅することができます。
以下の点を特に押さえておくとよいでしょう。
- 温度変化によってDNAの状態が変わること
- プライマーがDNAポリメラーゼの目印になること
- サイクルを繰り返すことでDNAが指数関数的に増えること
練習問題
【問題1】 基本的な理解
次の説明が 正しい場合は〇、間違っている場合は× をつけなさい。
- PCR法では、DNAを増やすためにRNAポリメラーゼを使用する。
- PCR法の3つのステップは「変性」「アニーリング」「伸長」である。
- PCR法では温度を一定に保つことでDNAを増幅する。
- PCR法を繰り返すことでDNAの量は指数関数的に増える。
- PCR法ではプライマーが鋳型DNAのどこにでもランダムに結合する。
【問題2】 温度の役割
次の空欄に適切な温度(約○℃)を入れなさい。
- 変性(Denaturation)では、DNAの二本鎖を一本鎖にするために、約__℃に加熱する。
- アニーリング(Annealing)では、プライマーを結合させるために、約__℃にする。
- 伸長(Extension)では、DNAポリメラーゼがDNAを合成しやすいように、約__℃に保つ。
【問題3】 PCR法の手順
次のPCRの手順を 正しい順番に並べ替え なさい。(1〜4の番号をつける)
- ( ) プライマーが一本鎖DNAに結合する。
- ( ) DNAポリメラーゼが新しいDNAを合成する。
- ( ) DNAを高温にして二本鎖DNAを一本鎖にする。
- ( ) 新しく作られたDNAをもとに、さらにPCRを繰り返す。
【問題4】 記述問題
- PCR法においてプライマーはどのような役割を持っているか?(50字以内)
- PCR法においてTaqポリメラーゼが使われる理由を説明しなさい。(50字以内)
- PCR法の特徴を2つ挙げ、それぞれ簡単に説明しなさい。
【問題5】 計算問題
PCR法を用いて、最初に1本のDNA分子があったとする。
このDNAをPCRで 5回 繰り返すと、理論上は何本のDNA分子になるか?
(計算式も書くこと)
練習問題 解答例
【問題1】 基本的な理解(〇×問題)
- ×(RNAポリメラーゼではなく、DNAポリメラーゼを使用する)
- 〇
- ×(温度を変化させながらDNAを増幅する)
- 〇
- ×(プライマーは特定の配列に結合する)
【問題2】 温度の役割
- 94〜98℃
- 50〜65℃
- 72℃
【問題3】 PCR法の手順(正しい順番)
- (3) DNAを高温にして二本鎖DNAを一本鎖にする。(変性)
- (1) プライマーが一本鎖DNAに結合する。(アニーリング)
- (2) DNAポリメラーゼが新しいDNAを合成する。(伸長)
- (4) 新しく作られたDNAをもとに、さらにPCRを繰り返す。
【問題4】 記述問題
- PCR法においてプライマーはどのような役割を持っているか?
→ DNAポリメラーゼがDNA合成を始めるための目印となる。(50字以内) - PCR法においてTaqポリメラーゼが使われる理由を説明しなさい。
→ 高温でも変性しないため、PCRの繰り返しに耐えられる。(50字以内) - PCR法の特徴を2つ挙げ、それぞれ簡単に説明しなさい。
① 少量のDNAから短時間で大量のDNAを増幅できる。
② 目的のDNA配列を特異的に増やすことができる。
【問題5】 計算問題
PCR法では、1サイクルごとにDNAの量が 2倍 になる。
最初に 1本 のDNAがあった場合、5回繰り返すとDNAの本数は以下のようになる。

答え:32本
まとめ
PCR法は生物学や医療の発展に欠かせない技術であり、高校生物でも重要な知識の一つです。PCR法の仕組みをしっかり理解しましょう。